【連載:高血圧と向き合う 第2回】その数値、本当に「高血圧」?高血圧の基準値と「白衣高血圧・仮面高血圧」の正体
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【連載:高血圧と向き合う 第4回】目標値「130/80」は厳しすぎ?将来の健康を守るための「基準」

こんにちは。神戸市東灘区、阪神御影駅から歩いて1分の場所にあります「谷尻医院」です。当院は昭和23年にここ御影の地で開院して以来、3代にわたり70年以上の長きにわたって、地域の皆さまの健康をすぐそばで見守り続けてまいりました。
現在は、「総合内科専門医」と「呼吸器専門医」というふたつの専門資格を併せ持つ医師が2名在籍しております。私、院長の谷尻力(総合内科専門医・呼吸器専門医・アレルギー専門医)をはじめ、医師やスタッフ全員が、患者さまのお気持ちに寄り添った優しく丁寧な診療を心がけています。風邪やアレルギーといった身近なお悩みから、高血圧などの生活習慣病、そして専門的な呼吸器疾患まで、お体全体の健康を総合的にサポートできるのが当院の特徴です。
前回の第3回では、お家での正しい血圧測定のコツや、ご自身の腕の太さに合わせた血圧計の帯(カフ)選びの大切さについて詳しくお話しいたしました。毎日決まったタイミングで、ありのままの数字を記録することが、何よりの健康管理につながることをお伝えできたかと思います。
正しい測り方が分かってくると、次に診察室では、「先生、血圧の目標が130未満って言われたけれど、厳しすぎて無理じゃないかしら? 昔は『自分の年齢に90を足した数字が基準』って聞いた記憶があるのだけど……」といった本音の声をお聞きすることがあります。
確かに、「130/80mmHg未満」という数字を提示されると、「そんなに低くしないといけないの?」とびっくりしてしまいますよね。しかし、最新の医療ガイドラインでは、多くの成人の方に対してこの「130/80」という目標がしっかりと掲げられています。
今回は、なぜこれほど基準が厳しくなったのか、そしてこの数値を目標にすることが皆さまの健康を維持するためにいかに重要であるかを、分かりやすく丁寧にお話ししていきたいと思います。
「年齢プラス90」はもう古い?血圧の基準が変わった背景
昔、「上の血圧は、自分の年齢に90を足した数字までなら大丈夫」と言われていた時代がありました。例えば60歳の方なら150、70歳の方なら160までは問題ない、という大まかな目安です。年を重ねれば血管が硬くなるのだから、血圧が上がるのも自然なこと、と考えられていたのですね。
しかし、現在は「人生100年時代」と呼ばれるように、皆さまが元気に、そして自分らしく長く生きる時代へと変わりました。それに伴い、医学の世界でも世界中で非常に大規模な調査や研究が進められてきました。
その結果、年齢に関係なく、血圧をこれまでの基準よりも「もう少し低め」に、上の血圧を130mmHg未満にコントロールした方が、将来的に脳卒中や心筋梗塞、そして心臓の機能が弱まる心不全といった命に関わる重大な病気を、明らかに減らすことが分かってきました。これからの長い人生を健康に生き抜くために、現在の「130/80」という新しい基準が生まれたのです。
わずか「5」の差がもたらす、将来への確かな安心感
「そうは言っても、130未満なんてノルマが厳しすぎる」と感じてしまうお気持ちもよく分かります。ですが、この数値は決して皆さんを苦しめるための意地悪な数字ではありません。
医学的なデータによると、上の血圧(収縮期血圧)をほんの「5mmHg」下げるだけでも、将来的に脳卒中や心不全、心臓発作になってしまうリスクを、なんと約10%程度も減少させることができると報告されています。この「5」というわずかな数字の差が、数年後、数十年後に健康な体でいられるかどうかの、大きな大きな分かれ道になるのです。
高血圧は症状がないからこそ、日々の血圧を少しだけ意識して引き下げておくことが、未来の大きな病気を未然に防ぐために重要になってくるのです。数値を無理なノルマと捉えるのではなく、自分の体を守ってくれるお守りのように考えていただければ嬉しく思います。

中年期からの血圧管理が将来の「認知症予防」につながる理由
血圧を適切に保つメリットは、脳卒中や心臓病といった血管の病気を防ぐだけにとどまりません。実は、40代から60代にあたる「中年期」の高血圧をそのまま放置してしまうと、高齢になってから血管性認知症やアルツハイマー型認知症を発症するリスクが高くなってしまうことが分かってきました。
血圧が高い状態が続くと、脳の中にある非常に微細な毛細血管にまで常に強い圧力がかかり、少しずつダメージが蓄積して脳の働きに影響を与えてしまいます。つまり、今から適切な血圧管理を続けることは、10年後、20年後の自分自身の「脳の健康」をしっかりと守り、寝たきりを予防し、いつまでも自分らしい暮らしを続けるための、有効な予防策のひとつになるのです。
元気なシニア世代こそ知ってほしい、これからの血圧の考え方
「若い世代ならともかく、もう75歳を過ぎている高齢の自分にも、130未満という基準は当てはまるの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
以前の医療では、高齢者の血圧はあまり下げすぎない方が良いとされていた時期もありました。しかし最新の考え方では、たとえ75歳以上の高齢の患者さまであっても、元気に歩いて通院ができ、お薬を飲んでも体質的に問題がない(お薬への忍容性が高い)「元気なシニア世代」の方であれば、やはり130/80mmHg未満を目指すことが強く推奨されるようになっています。高齢だから高めでいい、という時代ではなくなったのです。
もちろん、ご高齢の方の場合は、血圧を急に下げてしまうと立ちくらみやふらつきが起きたり、だるさを感じたりすることがあります。当院では、患者さまがそのような副作用で辛い思いをされないよう、総合内科専門医としての経験を活かし、お一人おひとりの体調や体力、日々の暮らしのご様子を確認しながら、お薬の量をゆっくりと慎重に調整していきますので、どうぞ安心してくださいね。
お持ちの持病や合併症に合わせた、あなただけの「オーダーメイド目標」
ここまで「130/80」という基準をお話ししてきましたが、この血圧の目標値は、すべての人に対して完全に一律というわけではありません。患者さまが今どのような持病(合併症)をお持ちかによって、医師が個別に、より注意深く目標を設定していきます。

糖尿病がある方の目標値
糖尿病をお持ちの方は、もともと血管が傷つきやすく、動脈硬化が進みやすい状態にあります。そこへ高血圧が加わると、血管への負担が何倍にも膨れ上がってしまいます。そのため、脳や心臓の病気を徹底して防ぐために、診察室では130/80mmHg未満、よりリラックスした環境であるお家での家庭血圧では「125/75mmHg未満」という、さらに一歩進んだ厳格な管理を目指すことが大切になります。
慢性腎臓病(CKD)で蛋白尿がある方の目標値
第1回のブログでもお話ししたように、腎臓は非常に繊細な毛細血管が集まってできた「フィルター」のような臓器です。慢性腎臓病があり、さらに尿にたんぱくが出ている(蛋白尿がある)状態は、腎臓の血管が悲鳴を上げているサインです。これ以上の悪化を防ぎ、将来的に人工透析になるリスクを回避するためには、やはり130/80mmHg未満の厳格な血圧管理を行い、腎臓の優しく守ってあげる必要があります。
一方で、糖尿病を合併しない、蛋白尿のない慢性腎臓病の方は、血圧低下による腎機能の悪化などの有害事象に注意しつつ、まずは140/90mmHg未満を中間目標とし、慎重に130/80mmHg未満まで降圧をすすめます。このように、腎臓の状態によっても目指すべき進め方は変わってきます。
過去に脳卒中を経験された方の目標値
これまでに脳梗塞や脳出血といった脳卒中を経験されたことがある方の場合は、何よりも「再発を防ぐこと」が最優先となります。一度傷ついた脳の血管は、次の強い圧力に対して非常に脆くなっているため、原則として130/80mmHg未満をしっかりと目指し、再発予防のための治療を行います。
ただし、首の太い血管(両側頸動脈)が高度に狭窄しておられる方などは、上の血圧が120mmHg未満まで下がり過ぎるとめまい、ふらつき、だるさ、頭重感、脱力感といった脳の血液が足りなくなる症状(脳循環不全症状)が出てくる可能性があり、下がり過ぎないように注意を要します。
結びに:目標値は、将来の健康を維持するための「守り神」です
「130/80」という数値を目にすると、どうしても「先生から出された厳しい宿題」のように感じてしまうかもしれません。しかし、この数値は決してあなたを縛るための冷たいノルマではなく、10年後、20年後のあなたが、今と変わらず健康を維持し、元気に歩き、ご家族やご友人と笑顔で自分らしく過ごすための「守り神」のような存在なのです。
「今の私の年齢や体の状態だと、本当はいくつを目指せばいいの?」「血圧を下げすぎて、ふらついたりしないか心配だな」と不安に思われるのは、ごく自然なことです。そんなときは、ぜひ一度、阪神御影駅前にある当院でお気軽にお気持ちをお聞かせください。
当院では、総合内科と呼吸器のふたつの専門的な視点、かかりつけ医としての視点を大切にしながら、皆さまの年齢、体力、そして日々の生活スタイルを丁寧に把握させていただき、お一人おひとりに合わせた「無理のない、しかし将来へしっかりと繋がる効果的な」血圧管理を、皆さまと一緒に考えてまいります。
次回は、お薬のお話に進む前に、誰もが気になる「薬に頼らず下げたい!自分でできる生活習慣改善の6つのポイント」について、具体的で分かりやすい工夫をたっぷりとお話ししていきたいと思います。どうぞ楽しみにしていてくださいね。
谷尻医院(総合内科・生活習慣病外来・呼吸器内科)
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