【連載:高血圧と向き合う 第4回】目標値「130/80」は厳しすぎ?将来の健康を守るための「基準」
ブログ
【連載:高血圧と向き合う 第6回】お薬との付き合い方:「一度飲み始めたら一生やめられない」の誤解

こんにちは。神戸市東灘区、阪神御影駅から歩いて1分の場所にあります「谷尻医院」です。当院は昭和23年にここ御影の地で開院して以来、3代にわたり70年以上の長きにわたって、地域の皆さまの健康をすぐそばで見守り続けてまいりました。
現在は、「総合内科専門医」と「呼吸器専門医」というふたつの専門資格を併せ持つ医師が2名在籍しております。私、院長の谷尻力(総合内科専門医・呼吸器専門医・アレルギー専門医)をはじめ、医師やスタッフ全員が、患者さまのお気持ちに寄り添った優しく丁寧な診療を心がけています。風邪やアレルギーといった身近なお悩みから、高血圧などの生活習慣病、そして専門的な呼吸器疾患まで、お体全体の健康を総合的にサポートできるのが当院の特徴です。
皆さまと一緒にお勉強してきた高血圧に関する連載ブログも、今回がいよいよ最終回となりました。
これまで血圧の怖さや正しい測り方、生活習慣の工夫などをお話ししてきましたが、いざ診察室でお薬(降圧薬)のお話になると、多くの方がこのような不安を口にされます。
「先生、どこも痛くないし症状もないのに、本当にお薬を飲まなきゃいけないの?」
「高血圧のお薬って、一度飲み始めたら一生やめられないって聞くから怖くて……」
毎日飲むお薬ですから、不安に思われるのは当然のことです。そこで最終回となる今回は、お薬に対するよくある誤解を解きながら、これからの健康な日々を継続するために、お薬とどのように前向きにお付き合いしていけばよいのか、最新の知見を交えて分かりやすく丁寧にお話ししていきたいと思います。
なぜ自覚症状がないのにお薬が必要なのか?
第1回のブログでもお話しした通り、高血圧は体に痛みや苦しさを与えないまま静かに進む「サイレントキラー(静かなる殺人者)」です。自覚症状が何もないから大丈夫、と放置している間にも、高い圧力を受け続ける血管や体の中の臓器は少しずつ傷つき、もろくなっていきます。そしてある日突然、脳卒中や心筋梗塞、人工透析が必要になる腎不全といった、人生を大きく変えてしまう重大な病気を引き起こすのです。
ですから、私たちが処方するお薬は、単に「今の血圧の数値を下げるためだけ」のものではありません。本当に大切な目的は、「10年後、20年後のあなた」が、大きな病気の後遺症による麻痺や心不全などに苦しむことなく、今と変わらず元気に笑顔で過ごせるように、健康の維持を目指すことです。
医学的なデータでも、上の血圧をほんの5mmHg下げるだけで、将来の脳卒中や心臓病のリスクを約1割も減らせることが報告されています。この「5mmHg」や「1割」という数字は小さく見えるかもしれませんが、これからの長い人生における安心感を考えると、本当に大きな価値があります。今お薬を飲むことは、将来の自分自身の健康を維持するための、何よりも価値のある「投資」なのだと考えてみてくださいね。

「一度飲み始めたら一生やめられない」という大きな誤解
「血圧のお薬は、一度飲み始めたら二度とやめることができない」という噂を耳にしたことがあるかもしれませんが、これは大きな誤解です。実際には、お薬を減らしたり、完全に中止できたりするケースは決して珍しくありません。
例えば、第5回のブログでご紹介したような、徹底した減塩、適正体重への減量、そして毎日のウォーキングなどの生活習慣改善を一生懸命に取り組み、成果が出た場合などです。体が本来の健康を取り戻せば、お薬の助けを借りる必要はなくなります。また、定年退職を迎えて日々の仕事のプレッシャーやストレスがガクンと減ったり、夏場になって自然と血管が広がって血圧が下がりやすくなったりしたタイミングで、お薬を減量・中止できることもよくあります。

ただし、ここで何よりも大切なお約束があります。それは、「血圧が下がったから大丈夫」と、ご自身の判断で勝手にお薬を飲むのをやめてしまわないことです。
お家で血圧が下がっているのは、お薬が裏方としてしっかりと働いてくれているおかげです。それを急にやめてしまうと、体がびっくりして血圧が以前よりも急激に跳ね上がる「リバウンド現象」が起き、脳卒中などを引き起こす引き金になりかねません。お薬をやめる、減らすというステップは、必ず私たち医師と相談しながら、安全に少しずつ進めていきましょう。
知っておきたい主な高血圧のお薬の特徴
ひと口に血圧を下げるお薬と言っても、実はそのアプローチの方法によっていくつかの種類に分かれています。当院では、お一人おひとりの体質や持病に合わせて、最も体に優しく効果的なお薬を慎重にお選びしています。
カルシウム拮抗薬(血管を広げるお薬)
現在、最も広く使われている代表的なタイプのお薬です。血管の壁にある筋肉がギュッと縮むのを防ぎ、血管の通り道を優しく広げることで、血液がスムーズに流れるようにして血圧を下げてくれます。
RAS(レニン・アンジオテンシン系)阻害薬(血圧を上げる物質を抑えるお薬)
体の中で血管をキュッと収縮させる物質の働きをブロックするお薬です。血管をリラックスさせるだけでなく、尿にたんぱくが出るのを防いで腎臓を守る力がとても強いため、糖尿病や慢性腎臓病をお持ちの方の体を守るためにも非常に有効なお薬です。
利尿薬(余分な塩分と水分を出すお薬)
体の中に溜まりすぎている余分な塩分(ナトリウム)と水分を、尿として体の外へ洗い流してくれるお薬です。パンパンに膨らんでいた血液の全体のボリュームを適正に戻すことで、血管にかかる圧力を効果的に引き下げてくれます。
ベータ遮断薬(心臓の頑張りすぎを抑えるお薬)
ストレスなどで交感神経が興奮し、心臓がバクバクと頑張りすぎてしまっているのを抑えるお薬です。脈拍が速くなりやすい方や、心臓に持病をお持ちの方などに適しています。
血圧の目標値(130/80mmHg未満)を無理なく達成するために、これらの異なる特徴を持ったお薬を2種類以上組み合わせて使うことも一般的です。最近では、ふたつの成分が最初から1錠にまとまった「配合剤」という便利なお薬も増えており、飲む錠数を減らして飲み忘れを防ぐ工夫も進んでいます。
呼吸器専門医としての視点①:喘息やCOPDがある方へ
当院は総合内科であると同時に、呼吸器の専門医院でもあります。そのため、治療の際には「呼吸器の病気と、高血圧のお薬との相性」にどこよりも細心の注意を払っています。
例えば、先ほどご紹介したお薬のうち「ベータ遮断薬」の一種には、空気の通り道である気管支を狭くしてしまう恐れがあるため、気管支喘息の持病をお持ちの患者さまには原則として使用を避ける必要があります。また、「ACE阻害薬」というタイプのお薬では、副作用としてコンコンという「空咳(痰の出ない咳)」が出ることがあります。この咳がお薬によるものなのか、それとも喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)といった呼吸器の病気が原因なのかを正しく見極めるには、専門的な経験が不可欠です。
皆さまのお体をトータルで守るためにも、受診の際にはぜひ、現在お使いのすべての「お薬手帳」を私たちに見せてくださいね。持病に合わせた安全なお薬を、一緒に選んでいきましょう。

呼吸器専門医としての視点②:高い血圧の裏に隠れた「睡眠時無呼吸症候群」
もうひとつ、呼吸器専門医として診察室で常に注意深く目を光らせているのが、血圧と「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」との深いつながりです。
過去のブログ(高血圧と睡眠の意外な関係)や、連載の第2回でも少し触れましたが、眠っている間に何度も呼吸が止まってしまうこの病気は、夜間の体に大きなストレスを与え、自律神経を激しく興奮させて血圧を押し上げる大きな原因になります。実は、いくつかのお薬を組み合わせてもなかなか血圧が下がりにくい「治療抵抗性高血圧」と呼ばれる患者さまの背景には、この睡眠時無呼吸症候群が隠れていることが非常によくあるのです。いくら血圧のお薬を一生懸命に飲んでも、根本にある睡眠中の無呼吸を放っておいたままでは、血圧を本当の意味で良好にコントロールすることは難しくなってしまいます。
「夜中に何度も目が覚める」「家族からいびきが大きい、たまに止まっていると言われる」「日中に強い眠気がある」といったお心あたりはありませんでしょうか。当院では、呼吸器専門医として、高血圧の背後にある睡眠時無呼吸症候群を見つけるための「ご自宅でできる簡単な検査」から、快適な睡眠と正しい血圧を取り戻すための「CPAP(シーパップ)治療」などの加療まで、当院で施行が可能です。高い血圧の根本的な原因を突き止め、お体全体の負担を根っこから取り除いていきましょう。
血圧手帳は、あなたと医師が二人三脚で歩むための大切なノート
お薬の調整や、無呼吸の関わりなどを見極めていくために、当院が何よりも大切にしているのが、患者さまと一緒に「血圧手帳」を用いた血圧管理を行っていくことです。
血圧手帳は、単に数字を書き留めるだけのノートではありません。そこには、あなたがお家でリラックスしているときの本当の血管の状態や、お薬がしっかりと効いてくれているかどうかの答え、そして季節の移り変わりによる変化など、あなたの大切な体の情報がぎっしりと詰まっています。診察室で皆さまからこの血圧手帳を見せていただき、「今週は朝の数字が落ち着いていますね」「寒くなって少し上がってきたから、お薬をちょっと調整しましょうね」と、一緒に確認し合っていくことこそが、当院の行うオーダーメイド医療の原点です。

決して綺麗に書こうと気負う必要はありません。数字が高かった日も低かった日も、ありのままの毎日の記録をぜひ私たちに共有してください。血圧手帳を開きながら、あなたと当院がしっかりと手を携え、二人三脚で血圧を管理していくことが、将来の大きな病気を遠ざけ、健康を維持していくために重要になってくるのです。
結びに:「一病息災」の気持ちで、健康で笑顔あふれる未来へ
全6回にわたってお届けしてきた高血圧のお話、いかがでしたでしょうか。
「病気がある」と言われると、どうしても気持ちが落ち込んでしまうかもしれませんね。ですが、古くから日本には「一病息災(ひとつくらい持病がある人の方が、体に気を配るためかえって長生きできるという意味)」という、とても前向きで優しい言葉があります。
高血圧というきっかけを通して、毎日の血圧や健康に関心を持ち、定期的に医院に通う習慣をつくること。それは、これから先のご自身の体全体の小さな変化をいち早く察知し、他の病気の早期発見や早期治療にもつながる、素晴らしいチャンスへと変えることができるのです。血圧手帳やお薬は、あなたの生活を縛る敵ではなく、これからの長い人生を笑顔で安心して走り抜けるための、心強いパートナーです。

「お薬のことでちょっと相談したい」「いびきが気になるから検査してみたいな」と思われたときは、いつでも阪神御影駅前にある当院までご来院ください。
総合内科と呼吸器のふたつの視点から、またかかりつけ医の視点から、皆さまの「10年後、20年後の変わらない笑顔」をすぐそばで守り続けるために、私たちはこれからも皆さまと一緒に歩んでまいります。
6回にわたる長い連載を最後まで温かくお読みいただき、本当にありがとうございました。
谷尻医院(総合内科・生活習慣病外来・呼吸器内科)
関連記事
【連載:高血圧と向き合う 第4回】目標値「130/80」は厳しすぎ?将来の健康を守るための「基準」
【連載:高血圧と向き合う 第2回】その数値、本当に「高血圧」?高血圧の基準値と「白衣高血圧・仮面高血圧」の正体
【連載:高血圧と向き合う 第5回】薬に頼らず下げたい!自分でできる生活習慣改善の6つのポイント
【連載:高血圧と向き合う 第3回】正しい血圧測定の極意:「測るタイミング」と「私に合う血圧計」の選び方
高血圧と睡眠の意外な関係|神戸市東灘区・御影の呼吸器専門医が解説
